2024年7月13-15日に公演を行った、演り人知らズ「どうせなにもみえない」で演出をつとめました。以下、中日の夜に書き留めた文章です。
公演直前の稽古での舞台写真を交えて掲載しておきます。(写真撮影:モックン)
※舞台裏的な内容ですので、そういうのは読みたくない!という方はそっと閉じてください。あるいはスクロールして、写真だけでも見ていってください。

今回のお話をいただいたのが今年の2月末。“演り人知らズ”のゲストクリエイターとして、瀬乃一郎氏の「どうせなにもみえない」の演出を行うことになった。過去に同企画で3度上演されている作品だそうだ。
今回の過程を振り返り、書き出してみた。
テキストの再構成について
まず戯曲を読んで、悩んだ。正直なことを言うと、わからなかったのだ。時系列も複雑で、物語を構成する内容も自作ではあまり扱わないようなものだった。
なのでまず、“わかるようにする”ことからはじめた。原作ではシーンの繰り返しも多い。テキストを切り貼りして並べ替え、重複したシーンをまとめ、時系列に並べ、どのような筋になっているのかをまず把握した。
上演を見据え、許可を得て改変を行うことにした。そのときに”自ら書き加えることはしない”と自分なりのルールを定め行うことにした。
各配役への台詞の割振りを見直す中で、登場人物がどういう関係性なのかを洗い出せた。
原作で終盤にある、そこまでのテキストのリミックスでつくられていた部分は全カットさせてもらい、その代わりに自分なりの”リミックス”を行った。これがかしやま版「どうせなにもみえない」の方向性を考える上で重要なこととなった。

演出イメージ
戯曲の再構成を一通り行った段階で、並行して演出イメージを考えていく。
少女性、大人と子ども、ティーンの感じ……
作品のことを考えると同時に、2024年現在のぼく自身が受けている影響も反映される。
具体的には”Y2K”と呼ばれる現在の流行。それは自分がティーンの頃とも重なることもあり、イメージに合致した。
“Y2K”のアイコンリーダーとして名が上がるのは、K-POPアイドル「NewJeans」。もともとMVを観たりしていたが、あらためて繰り返し視聴した。
特に今作で参考にしたのは「OMG」という楽曲のMV。
NewJeans「OMG」MV
https://www.youtube.com/embed/_ZAgIHmHLdc?feature=oembed
当日の配布物として用意した”蚕”についての文章は、原作にはないオリジナルのもの。実はこの蚕が演出イメージに加わったのはだいぶあとのことだった。先に”糸”や”白”、“蝶”というモチーフがあり、導き出したイメージだった。

舞台美術・照明・音響・衣装
イメージを具現化していくにあたり、今回は”自分一人のできる範囲で最大限やってみる”という裏テーマみたいなものがあった。
これまでも舞台照明音響などをセルフで取り組むことは多かったのだけど、自身の作品ではやれることから逆算してしまうことが自然と多かった。今回は他者の戯曲なので、戯曲からの要請に自分のできる範囲でどこまで答えられるのか、あるいは古民家の会場を、“劇場らしい空間”に近づけられるのかに挑戦した。

照明
Bluetooth制御のLEDライトを2灯とLEDテープを使用。海外通販サイトでびっくりするくらい安く手に入った。オペはスマホで行った。フェードができなかったり反応が悪かったりとリスクはあるが、寒暖色が調整(今回使わなかったがカラーも)できるのは役立った。
ラストのストロボは専用のものではなく、LED電球を取り付けたクリップライトに調光をかますと点滅するのを利用したもの。
正直照明に関してはあまり知識がなく、もっとやりようがあるのではないかとは毎度思っている。が、ぼく個人が今できることとしては最大限工夫したといえるだろう。

舞台美術
客席前面にひもカーテンを垂らす、というのはわりと初期から考えていた。「どうせなにもみえない」というタイトルからのイメージや、効果としてものすごく近い空間で役者が近いことに圧迫感を感じない形になるだろう、という狙い。
床にパンチを敷き、白線テープをひいた。横と奥には不織布。これは蚕の繭のイメージから。(実は会場のパンチが足りなかったというのもある。結果的に全面パンチよりよかった)

音楽
はじめて劇伴らしい楽曲をつくった。今回は全曲自らつくっている。
DTMはお遊び程度に触ったことがあるくらいだったのだが、今回は自ら作曲に挑戦。
電車の音・心拍音をベースに、全曲3拍子にした。コード進行は、NewJeansやILLITの楽曲から引用している。そう、実はNewJeans的サウンドを目指していたのだけれど、出来上がったものはlofi hiphop的なものになった。これはこれでアリかなと思っている。
楽曲をつくったのは公演がだいぶ近づいた段階で、通し稽古の映像にあわせてつくっていた。このやり方だと曲の展開や尺がだいたいあうので、ぴったりはまりやすいことに気づいた。
soundcloudに公開している劇中曲。クライマックスのシーンで使用。
終盤シーンで使用の楽曲。どちらも心拍音のような音と電車の走行音、アンビエントなシンセで構成しているが、各シーンの雰囲気に合わせて違う感じにしている。
他の楽曲はこの二つの楽曲の要素を用いて、音色を少し変えたりして構成していた。
衣装・メイク
今回の衣装プランはぼくが大まかに考え、出演者と吟味しながら選んだ。
こちらもNewJeansのMVを参考にY2K感のあるものを選んだ。マイに関してはいくつか候補があったが、“蝶”のトップス、“白線”のジャージ(蝶のイメージでリボンつき)。ここでマイを”蝶”にしたことから連想で”蚕”のモチーフが生まれた。
メイクに関しては基本お任せではあるが、目元のシールやチークと、マイの髪型はリクエストさせてもらった。こちらもやはりNewJeansなどからきている。
衣装や目元シールも海外通販サイトで購入(+個人私物)。びっくりするほど安価で手に入った。

演技面について
以上スタッフワーク的な部分の話だったが、実際には稽古のなかで役者と、それも実際の会場となる古民家「アトリエ混沌堂」の中で時間を重ねて作品と向き合う密度の方が濃く、その中で醸成されたものがスタッフワークにも反映されている。
稽古の仕方としては、基本的に改稿した台本を頭から順に一巡、二巡と周回を重ねてだんだんつめていった。
稽古の始めの方の段階で、「あまり深く感情移入しないでほしい」ということを言っていた。それは、この作品のティーン的な感情から我々は既に距離があり、それそのものに移入するのは不自然だと感じたからだった。作中のことばを借りれば、もう大人である我々は”線を引いた”側の位置だからだ。
だからある種客観的に・表面的に扱おうと思っていた。稽古中も立ち位置や移動の動き、ビジュアルイメージの話が多く、作品世界について深く追及しなかったのは、そのような理由からだった。

稽古終盤、というか公演直前になって、声のボリュームを著しく抑えてもらうようにした。これは小屋の特性で、非常にせまく近い空間であること、また声の響き具合から、声をなるべく張らずにボソボソしゃべった方が、むしろ聞き取りやすいことに気づいたからだった。
これにより、それまでより作品全体が引き締まって格段によくなった。これはおもしろい発見だった。

今回はあたらしいまちメンバーの牧由香里・杉浦こころに加えて、平手さやかさん(星の女子さん)に出演していただいた。あたらしいまちでは台本のある芝居をやってきてないので、様々な舞台に出演経験があり、かつあたらしいまちメンバーとの雰囲気的相性もよいだろうと、かねてより気になっていた平手さんにご出演いただけた。「マイ」という難しい存在感のキャラクターを配置できたのは、平手さんのおかげだ。彼女の持つ独特の存在感で、「マイ」というキャラクターを立ち上げられた。

主人公であり物語の語り部でもある「みい」には牧由香里。彼女の透明感といったらいいのか、主観として観客が入っていきやすい感じが、今回の物語を理解しやすくしてくれている。

「しー」には杉浦こころ。彼女のもつ普段の明るさとはまたひと味違う、クールさ・かっこよさを今回は担ってくれている。いつかこういうキャラクターをやってほしいなと思っていた。

正直な反省を述べると、今回はわりとトップダウンに、演出であるぼくから注文を出してつくっていった。もっと違うアプローチで役者とセッションを重ねながらつくってみたい気持ちもある。とはいえそれはまた別の作品、別の機会がいいなと思う。(この場を借りて、ご出演の3名、ありがとうございました。)

蚕のイメージについて
これらの具体的なことを詰めていく中で、原作中にある”蝶”、そこから発展して”蚕”のモチーフに行き着いた。
会場配布物にこのような文章を載せた。
蚕(カイコ)は、蛾の一種。
繭から絹糸を取るために家畜化された昆虫で、野生には存在せず人間の世話が必要である。
幼虫はほとんど移動せず、餌である桑の葉を自ら探すこともできない。
成虫は羽があるが飛ぶことはできず、また口はあるが餌を食べることはなく、1週間ほどで死んでしまう。

“大人になったら蝶になる、と思っていたのに蛾だった”
そんな少女の物語のように思えた。
この「どうせなにもみえない」で描かれている”少女性”の儚さ、無力さ、醜さといったものと蚕のイメージが重なるように思えた。
白い繭に包まれて、内からも外からも”なにもみえない”というのが、かしやま版「どうせなにもみえない」で辿り着いたイメージだった。本来見えない、目を向けないことをちょっと覗きみるような、そんな作品になれていたらいいなと思う。

2024.7.14 かしやま








